二の腕に、いきなり歯が当たった
ソファで並んでテレビを見ていたら、隣から急に距離が詰まってきた。
次の瞬間、腕にふにっとした感触。
え、噛んでる?
痛いと声を出すより先に、体がびくっと跳ねていた。彼はへらっと笑って、可愛くてつい、と言う。何それ。
痛いより先に、体が跳ねた
27歳の女性から聞いた、交際が始まって間もない時期の話。
痛いと伝えればすぐ離してくれる。それなのに毎回、同じ言い訳で片付けられる。
腹が立つかというと、そこまででもない。噛んだあと、必ず同じ場所を手のひらで撫でてくるから。
この流れに弱いんだよなあ…
噛んだあとに撫でる手のこと
ここ、けっこう分かれ目になる。
歯を立てて、そのまま何もしない人。歯を立てて、すぐ撫でる人。
撫でる動きが入るなら、自分がやったことを本人が把握している。加減を意識している合図でもある。
反応を一切見ずに続ける相手は、まったく別の話として扱ったほうがいい。
好きすぎて噛む、は誇張じゃないらしい
食べちゃいたい、が本当に近いという説明
彼女は後日、理由を本人に聞いてみたそうだ。
好きすぎてどうにもならなくなったときに出る。食べちゃいたいくらい、って言い回しがあるでしょ。あれ、比喩じゃなく感覚そのものなんだよ。
言葉として使い古されてきた表現が、そのまま行動に出ている。今の彼女は、彼らしい渡し方として受け取っている。
可愛いものを見て、ぎゅうっとしたくなる現象
26歳の女性は、可愛すぎて噛みたいと何度も言われ、気になって調べたらしい。
子犬や赤ちゃんを前にしたとき、ぎゅうっと抱きしめたくなる衝動。あれと近い場所から出ているという説明にたどり着いて、胸のつかえが取れたという。
好意が振り切れると、つねる、握りつぶしたくなる、といった逆向きの衝動が顔を出す。上がりすぎた感情を戻すブレーキとして働いている、と考えられている。
本気の愛情表現なんだと理解できた。今は噛む前に一言、をルールにしている。彼女は肩を揺らして笑っていた(笑)
独占欲の歯と、甘えの歯
噛む側の内側を聞いてみると、動機は一枚岩じゃなかった。
自分のものだと確かめにくる歯
33歳の男性は、自分の癖をきちんと自覚していた。
恋人の肌が柔らかくて、触っているうちに口に入れたくなる。二の腕とか肩のあたりが特に。独占欲もあると思う。この人は自分のものだ、と確認したくなる瞬間があるんだよね。
強くは噛まない。跡が残らない加減を守っている。付き合う前にこの癖を伝えてあって、嫌がられたらすぐやめる約束も交わしているそうだ。
癖を先に開示する人は、相手の反応を計算に入れて動いている。
じゃれ合いとして出てくる歯
35歳の男性の言い分は、まるで違った。
信頼している相手にしかやらない。動物がじゃれ合うのに近い感覚。もう、と言いながら笑っている顔を見ると、余計にやりたくなってしまう。
独占欲というより、安心できる相手だから出せる甘え。首筋を軽く噛んだときにくすぐったがる反応が好きで、二人の遊びとして定着しているらしい。
甘えから出る歯は、力がほとんど入っていない。触れているだけに近い。
だんだん強くなる噛みには、別の事情がある
肩に薄く残り始めた跡
28歳の女性が話してくれた経験は、少し重かった。
彼の噛みが徐々に強くなり、肩に薄い跡が残るようになった。痛いと言えば、ごめん、と謝る。謝りながら、また歯を立ててくる。
反応を見て面白がっているのでは。そう思い始めてから、彼の口元を見るのが怖くなった。喉の奥がきゅっと締まる感じ、と彼女は表現していた。
腰を据えて話してみたら、本人にも理由が整理できていなかった。構ってほしくてやってしまう。仕事で追い詰められている時期に集中している。そこまで言葉になったのは、彼女が問い詰めずに聞いたからだと思う。
今は噛む代わりに、ハグを長めにしている。だいぶ落ち着いてきたそうだ。
仕事が詰まっている時期に増える
38歳の男性も、似た話をしていた。
前の恋人に本気で怒られた経験があって、それ以来ずっと力加減に神経を使っている。今の相手には、こういうときにやりたくなると先に伝えて、了解をもらってから。
繁忙期ほど無意識に回数が増える、という自覚もあった。
生活の波と噛みの量が連動しているなら、癖そのものを責めても前に進まない。最近詰まってる?の一言のほうが、よほど早く着く。
苦手だった人は、苦手のままでいい
考えるより先に、手を引いていた
24歳の女性は、指を甘噛みされた瞬間、反射で手を引っ込めた。
歯が当たる感覚が、とにかく無理。相手が誰であっても変わらない。
彼はすぐ謝り、それきり噛まなくなった。好きだから噛むと言われたけれど、自分には合わなかった。無理に合わせなくてよかった、と彼女は言い切る。
苦手な感触を我慢して受け入れ続けると、触れられること自体が億劫になっていく。早めに線を引いていい場所。
一度で引っ込められる人かどうか
伝えた翌日からやめる人と、謝りながら繰り返す人。ここに人柄がまるごと出てしまう。
拒まれた癖を止められるかどうかは、この先の別の場面でも効いてくる。彼女が彼への評価をむしろ上げたのも、わかる話でしょ。
熱が上がった夜の歯は、話が変わる
痛みではなく、ゾクッとくるほう
31歳の女性が教えてくれた。夢中になってくると、彼が肩や太ももを軽く噛んでくる。
痛いとは違う。ゾクッと背中を走っていく感じ。彼が我を忘れている合図みたいで、こっちの熱も引っ張り上げられる。
本人のほうは、反応が可愛くて止まらなくなる、と説明していた。
弱い痛みは、緊張と、そのあとの緩みの落差を作る。落差が大きいほど直後の感覚が濃くなる。歯が選ばれやすい理由のひとつ。
翌朝の鏡と、襟の高さ
跡が残るほどの力ではない。それでも翌朝、うっすら残っている日がある。
あ、昨日の。首筋に指を当てると、頬がじわっと熱くなる。
困るのはその日の予定だ。襟の高い服に着替え直した朝が何度かあったらしい。
どこなら残っていいのか、先に決めておくと慌てずに済む。肩、二の腕の内側、太もも。服で隠れる範囲を指定しておけばいい。首から上は避ける、と取り決めている二人は多い。
跡と傷の、わかれ目
皮膚が破れたら、それは甘噛みじゃない
ここだけは、あいまいにできない。
歯が皮膚を破ったなら、放置しないこと。口の中には多くの細菌が住んでいて、人の噛み傷は他の切り傷より炎症を起こしやすい。
流水でよく洗い、清潔に保つ。赤みが周りへ広がる、腫れてくる、じんじんした痛みが引かない。この段階まで来たら医療機関へ。手や指を噛まれた場合は特に急いだほうがいい。
血がにじむほどの力は、加減の失敗ではなく、加減をしていない。
色が変わる日数と、消し方
内出血の跡は、1週間から2週間ほどかけて色を変えながら薄くなる。赤紫、青、緑、黄色。この順で移っていく。
当日から翌日までは冷やす。にじみが止まってからは温めて、めぐりを助ける。順番を逆にすると広がることがあるので注意したい。
どうしても隠したい日は、色でぶつける。紫がかった跡には黄色系、赤みが強いなら緑系のコントロールカラーを薄く置き、その上からファンデーション。厚く重ねるより、色を打ち消すほうがきれいに消える。
こするのは無意味。皮膚の下で起きている出来事だから、表面に力を加えても何も変わらない。
噛む前に一言、というルール
強さを数字にしておく
痛い、で止まる関係ができているなら、それが最短。
ただ、盛り上がっている最中は声が届きにくい。だから強さを数字で共有しておく方法がある。2くらいまで、と先に渡しておけば、途中で言い直す手間が減る。
場所と強さを事前に決めるのは、縛りではなく段取り。決まっているほうが、その場で気を遣わずに済むよ。
歯の代わりになるもの
刺激そのものが嫌なのではなく、歯だけが苦手。この人は置き換えが効く。
手のひらで少し強めに押さえる。柔らかい素材で圧をかける。ラブグッズを使うなら、肌に当たる面が広く、角の立っていないものを選ぶと痛みの質が変わる。シリコン製で継ぎ目のないものは洗いやすくて、後始末で気が重くならない。
当てる場所は、痛みに強いところから試す。骨のすぐ上や、細い血管が透けている場所は外したい。
使い終わったら洗って乾かす。赤みが残っている日は、その部分を休ませる。
痛いと言えるかどうかで、ほぼ決まる
噛み癖そのものに、良し悪しはない。愛情の濃さ、独占欲、信頼、ストレスの逃がし方、肌の感触が単純に心地いい。それらが混ざって歯という形で出てくる。
線が引かれるのは一点だけ。やめてと言われた瞬間に、手と口が止まるか。
腕をさすられながら、また同じ言い訳を聞かされる夜。それを受け取るかどうかは、噛まれた側が決めていい。

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