天井が白んでくるまで、目が閉じられなかった
知らない部屋の、知らない天井。
隣で寝息が聞こえている。自分の服がどこにあるのかも、まだ確かめていない。
スマホを裏返したまま、手を伸ばせないでいる。通知が来ていたら、と思うと指が動かない。
何やってんだろ、私
快感より、虚しさが残っている
話を聞いていて印象に残ったのは、ここだった。
その最中に強く感じたと語る人が、ほとんどいない。むしろ、今何をしているんだろう、という空白のほうを覚えている。
27歳の女性は、行為そのものに高ぶりはなく、虚しさのほうが勝っていたと話した。
盛り上がった結果の出来事ではなかった、というのが多くの人の実感らしい。
検索窓に打ち込む手が、少し震える
この語を打ち込んだ人は、たぶん誰にも言えていない。
友人にも相談できない。相手にも言えない。だから、画面に向かって同じことをした人を探している。
先に書いておくと、ここでは責めない。ただ、なかったことにもしない。判断の材料と、やっておいたほうがいいことを並べる。それだけ。
踏み出した理由は、たいてい曖昧だった
好きになったから、という人は一人もいなかった。
酔いと、終電と、その場の勢い
25歳の女性は、友人と飲んだ帰りに声をかけられた。すでに酔って気分が上がっていて、つい話に乗ってしまったそうだ。
途中で彼氏がいると伝えた。軽く流された。危ないと感じたのに、自分を制御できなかったという。
終電を逃し、友人が泥酔して支えきれなくなり、同じ部屋に泊まる流れになった。好きになったわけでもないのに、そのまま関係を持ってしまった。
記念日が近い時期だったのが、余計にこたえたらしい。
マンネリの時期に、向けられた好意
先の27歳の女性は、二年付き合った相手との間に停滞を感じていた。
会社の飲み会で、普段話さない先輩が隣に座った。彼氏がいると答えたのに、冗談めかしながら明らかに狙ってくる。
終電近くまで話し込んだ。普段とは違う好意を向けられる感覚が、少しだけ心地よかったそうだ。
スマホに、気をつけて帰ってね、と届いた瞬間に胸が痛んだ。それでも足は駅とは反対へ向かっていた。
会えない時間が、言い訳になった
31歳の女性は、仕事が忙しくて会えない日が続いていた。
旅先の宿のバーで、隣にいた男性と話が合った。彼氏の話も出したけれど、今は会えていないから、と自分で言い訳するように口にしていたという。
部屋へ戻る途中で誘われ、断る理由を探しきれなかったそうだ。
最中も、これはただの一夜だと自分に言い聞かせていた。終わったあとに強い嫌悪が湧いた。
喧嘩の直後という、いちばん危ない夜
29歳の女性の話が、最も分かりやすい形をしていた。
恋人と大きく揉めた直後、気分が沈んでいた夜に、偶然会った元同僚と飲んだ。愚痴を聞いてもらううちに、今の関係では満たされない部分があると感じてしまった。
行為は淡々としていて、これで気持ちが整理できるかもしれない、とすら思っていたそうだ。翌朝、激しい自己嫌悪に襲われた。
喧嘩の反動でやったことが、結局いちばん傷つけた。彼女はそう言っていた。
止まれたはずの地点は、必ずあった
あとから振り返ると、分かれ道はいくつもあった。ここを潰しておくことが、次の予防になる。
彼氏がいる、と言った後に流された瞬間
先の25歳の女性も、27歳の女性も、途中できちんと伝えている。それが軽く流された。
ここが一つ目の分岐。流された時点で、その人はあなたの状況を尊重する気がない。
伝えて反応が薄かったなら、その場から離れる理由としては十分。
駅とは反対方向へ歩いた数十メートル
決定的なのは、たいてい移動の場面。ホテルの前で足が止まったとき、先輩は嫌なら帰ろうと言った。それなのに、自分から次の言葉を出してしまった。
27歳の女性は、そこを鮮明に覚えている。
向きを変える。この動作は、口で断るより簡単。すでに歩き出していても、途中で引き返せる。
一回だけなら、と自分に言った時
23歳の女性は、合宿で酔った勢いで先輩と部屋に残った。遠距離で寂しさを持て余していた時期だったそうだ。
一回だけなら、と自分を納得させた。翌朝になって、なかったことに、と口にした。
それからしばらく、電話で声が震えるようになったという。
酔っていたからと言い訳したくなるけれど、酔っていなくてもあの状況に流されやすい自分がいた。彼女は今、そう分析している。
自分に言い訳を用意し始めた時点で、もう決めている。この自覚は、次に効く。
言うか、黙るか
検索している人が、いちばん知りたいところだと思う。
二日後に打ち明けた人
25歳の女性は、記念日を何も知らない相手と過ごすのは酷だと考えて、二日後に伝えた。
四人でホテルに泊まってしまった、ごめんなさい。それだけを口にした。
彼の返事は、このまま付き合うのは無理、だった。連絡は遮断され、最後に短い言葉が一つ届いて終わった。
今も、あの夜の浅はかさが忘れられないと語る。
抱えたまま、自然に終わった人
先の31歳の女性は、誰にも言わなかった。
旅行から帰って会ったとき、いつも通りの優しい表情を見て、余計に自分が汚れた気がしたそうだ。
そのまま抱え続けて、半年後に自然消滅の形で別れた。伝えたらもっと傷つけると思ったから、と。
それでも今、正直に話せばよかったのかと迷うことがあるらしい。
どちらを選んでも、たいてい壊れる
残酷だけれど、これが実際のところ。
告げた人も、黙った人も、結果として関係は終わっている。
だから、伝えるかどうかを、関係を守れるかどうかで決めないほうがいい。決める基準は別のところに置く。
相手に判断の材料を渡すかどうか。この一点で考えるほうが、後で自分が納得しやすい。知らないまま続けるか、知ったうえで選ぶか。それを決める権利は相手のものだから。
ただし、次に書く体の話が絡む場合は、選択肢がなくなる。
判断する前に、確かめておくこと
気持ちの整理より、こちらが先。誰にも聞けないぶん、後回しになりやすい。
その日から72時間の話
避妊具を使わなかった、途中で外れた、記憶が曖昧で確かめられない。心当たりがあるなら、早いほど有利になる。
緊急避妊薬は、時間が経つほど確率が落ちる。72時間以内が目安で、24時間以内ならさらに条件が良くなる。婦人科やオンライン診療で処方を受けられ、一部の薬局でも扱いがある。夜間や休日に対応している医療機関もある。
生理予定日を一週間過ぎても来ないなら、市販の検査薬で確かめる。それより早く測っても正しい結果は出ない。
検査は、待たないと結果が出ない
性感染症には、感染してから反応が出るまでの空白期間がある。翌日に駆け込んでも、そこは分からない。
クラミジアや淋菌は数日から一週間ほど、梅毒はおよそ一か月、HIVは一か月から三か月を見ておく。保健所ではHIVの検査を無料かつ名前を伝えずに受けられる自治体が多い。
喉や口から移るものもあるので、気になる部位を医師に伝えると検査の範囲が変わる。
かゆみ、おりものの変化、排尿時の違和感、原因の分からない発熱。ひとつでも出たら、期間を待たずに受診する。
相手に移す可能性を、切り離せない
ここが、黙るという選択を難しくする部分。
検査の結果が出るまでの間、恋人と関係を持つと、その人にも危険が及ぶ。自分の判断だけで完結しなくなる。
結果が出るまで避けるか、必ず避妊具を使うか。少なくとも、そこは動かせない。
体調が悪いから、と理由をつけて先延ばしにする人が多い。それでも、この期間だけは押し通してほしい。
自分を裁き続ける時間について
汚れた気がする、という感覚
先の31歳の女性が使った言葉が、多くの人の実感を表している。
相手の優しさに触れるほど、自分が遠くなる。この感覚は、しばらく続く。
消そうとしても消えないので、ある程度は付き合うしかない。ただ、無限に続くものでもない。
責め続けても、何も戻らない
自分を叩き続けることと、責任を取ることは別。
やるべきことは、体の確認と、伝えるかどうかの判断と、次に同じ状況を作らないこと。この三つだけ。
延々と自分を裁いても、そのどれも進まない。
ただ、なかったことにもしないでほしい。軽い出来事として処理すると、たいてい同じことが起きる。
次の恋で、同じ不安を抱えないために
引きずる人が多い理由
話を聞いた中に、次の恋愛でも同じ不安を抱えるようになったという人がいた。
自分がやったことがあるから、相手も同じことをするかもしれない。そう考えてしまう。
過去を打ち消すことはできない。できるのは、次に同じ夜を作らないことだけ。積み重なれば、その疑いも薄れていく。
危ない夜の条件は、だいたい決まっている
集まった話を並べると、条件が驚くほど共通していた。
酒が入っている。終電がない。相手と揉めた直後。しばらく会えていない。停滞を感じている。
このうち二つ以上が重なった夜が、いちばん危ない。
だから、対処も具体的にできる。帰る時刻を先に決めておく。喧嘩した日は飲みに行かない。会えない期間が続いているなら、連絡の頻度を上げる。停滞を感じているなら、それ自体を相手に言葉にする。
意志の強さで乗り切ろうとしないこと。その場に立ってから判断するのが、いちばん難しいので。
あの夜を、どこに置くか
好きだったから、ではなく、流れと酔いと寂しさと停滞。踏み出した理由は、たいていそのあたりに転がっている。
そして、その瞬間は防げたはずなのに防げなかった。話してくれた人の全員が、そう言っていた。
今できるのは、体を確かめること、伝えるかどうかを自分で決めること、次の夜の条件を潰しておくこと。

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