スマホをいじっていたら、二の腕にはむっと歯が当たった。痛くはない。ただ、意識が全部そっちに持っていかれる。
二十八歳の彩乃さんがそれをやるのは、彼の気がそれているとき。こっちを見て、の代わり。
彼も分かっていて、噛まれた腕でそのまま抱き返してくる。言葉にしない代わりに、口で触れる。
普段は穏やかなのに、興奮すると力加減を忘れるらしい。痕は残さない約束なのに、翌朝うっすら残っていて焦る朝がある(笑)
仕事の服で隠せる場所だから、つい腕を選んでしまうのだとか。
腕は首や耳ほど神経が集まっているわけじゃない。それなのに、歯を立てたくなる瞬間がある。その理由は、噛む側と噛まれる側で別々に見たほうが早い。
噛む側に起きていること
愛しさが溢れて、行き場を失う
三十一歳の翔真さんは、彼女の二の腕の柔らかさが好き。胸に近い弾力があって、口に含むと落ち着くという。
計画して噛むわけじゃない。先に愛しさが来て、あとから歯が動いている。食べてしまいたい、という気持ちの置き換えだと自分では思っているそうだ。
吸いながら噛むと、赤い痕が残る。彼女は好かれている印として受け取るタイプで、隠さず出すこともある。二人の間では合図になっている。
注意を取り戻したいとき
かまってほしい、こっちを見てほしい。言葉で言うのが照れくさいぶん、口で伝える。
甘えの表現でもあり、独占の主張でもある。痕が残る場所を選ぶかどうかで、その比率が見えてくる。
部位の好みが、そのまま心理になる
二十七歳の悠斗さんが噛みたくなるのは、筋肉のついた腕。浮いた血管、硬さ、守られている感覚。触るだけでは足りず、歯を立てたくなる。
柔らかい腕に歯を当てる人は、肌の質感そのものを味わっていることが多い。硬さに惹かれるのか、柔らかさに惹かれるのか。同じ噛む行為でも、動機が違う。
噛まれる側に起きていること
力んで、そのあと抜ける
三十六歳の由紀恵さんは、噛まれると一瞬身体が固まり、次に力が抜ける。この順番が気持ちいいという。
いきなり強い場所を責められると痛みだけで終わる。腕や背中から入ると、脳が追いついてくる。
腕はまだ本番じゃない場所なので、警戒が薄い。そこを噛まれると、捕まえられている感覚だけが残るそうだ。
もっと強く、と言わされる恥ずかしさ
二十五歳の実優さんは噛まれるのが好き。相手のものになった感じがするから。
甘噛みでは物足りない夜と、痕が残るくらい欲しい夜がある。わざと弱く繰り返されて、もっと強く、と自分から言わされる流れがいちばん恥ずかしい。
気づけば腕を差し出している自分がいる。被虐になりきれないのに欲しくなっている。普通に戻ると物足りない、というその感覚が、少し怖いとも話していた。
挿入中に噛みつくのは、耐えている反応
三十四歳の直哉さんは、行為の最中に彼女が自分の腕へ噛みついてくる。気持ちよすぎて逃げ腰になったとき、口が寂しくなるらしい。
噛んで力んで、痛みで息を吐いて、そこで脱力する。その抜けた瞬間に、中の刺激が一段強くなる。あとから彼女に説明されて分かったという。
これは襲っている側の行動じゃない。受けている側の混乱が、歯に出ているだけ。
自分の腕を噛んで耐える人もいる。相手を傷つけたくないぶん、興奮の行き場を自分の身体に向けている。
痕をどこに残すか、という生活の話
内側と外側で、意味が変わる
二十三歳の朱莉さんは痕が残るのが嫌。夏服、半袖の職場、家族に見られる可能性。
腕でも内側と外側では目立ち方が違う。内側は袖で隠せるけれど、皮膚が薄いぶん痛みやすい。外側は隠しにくい。
彼が興奮すると抑えられないと言うので、太ももや尻に逃げてもらうよう頼んだ。心理が愛情でも、生活の都合は別問題だから。
場所と強さを先に決めてから、噛む行為はむしろ続くようになったという。
強く噛まないための一手
歯を立てる前に、唇で挟む。皮膚をいったん口に含んでから、力を少しだけ乗せる。この順番だと、痕が残るところまで行きにくい。
噛んだあと赤みが引かない、腫れる、皮膚が切れた。そういうときは冷やして、必要なら皮膚科へ。皮膚を破る強さは、痛みの範囲を超えている。
愛情のつもりが、一方通行になるとき
嫌がられているのに続けてしまう
三十歳の沙耶さんは、テレビを見ながらふざけて彼の腕を噛んだのが始まりだった。痛がる顔が面白くて、癖になる。
子どもにするような甘噛みのつもりでも、相手は最初から嫌だった。叩く真似をされて、ようやく気づいたという。
噛んでもいいよ、と言っても、嫌だ、と返される。それでも衝動は残る。
力を落とすか、場所を変えるか、やめるか。三つのどれかを選ぶ前に、話す時間が必要だった。
毎回になると、確認の儀式に変わる
三十九歳の浩平さんは、毎回噛んでくる相手に独占の強さを感じるという。
一度や二度なら溢れた愛情。習慣になると、確かめる作業に見えてくる。受け取る側が喜んでいれば成立する。嫌がっている相手に続けるのは、かわいい攻撃性では済まない。
自分が気持ちよくなる行為でも、相手の身体が同じように反応しているとは限らない。
先に一言、決めておく
痕は残していいのか、どこまでなら平気か、強さの上限はどこか。行為の前に一往復するだけで済む。
ムードが壊れる、と嫌がる人はいる。それでも、翌朝に慌てて長袖を探す時間よりはずっと短い。
確認したあとの甘噛みは、言葉より短い愛情表現になる。確認していない噛みは、ただの痛みで終わる。腕という場所は、そのどちらにも転びやすい。

コメント